この夜だけは

夜の10:00、僕らは阿佐ヶ谷のサイゼリヤにいました。他愛のない会話が続きます。楽しい夜です。

「そういえば、何か話したいことがあるって言ってなかった?」
友人が僕に水を向けます。さっきそんなことを言ったような気もしますが、すっかり忘れていました。

最初はたどたどしく、けれども会話を重ねるうちにだんだん話が繋がっていき、僕がここ何年もずっと孤独感に苛まれているということを打ち明けました。一緒にいた友人のうち2人は結婚して子供もいます。もう1人は独身ですが、ずっと一緒に住んでいる恋人がいます。僕だけが本当に1人なのです。

友人達は色々な言葉で慰めてくれます。その気持ちはありがたく温かいのですが、かといって何か解決することはありません。

終電の時間も近づいてきて、店を出て駅へ向かいます。その路上での会話です。

「最近英語の勉強のために、Tim O’brien の小説を読んでいるのです。その中で主人公が “I felt isolated.” って言うんです。 僕はまさにそれです。I’m feeling isolated. なのですよ。」

初夏の夜風がじつに気持ち良い夜でした。

「けれどもね、少なくとも今夜、今この瞬間だけは、俺は孤独じゃない。」

僕の口から出た言葉は、混じり気なく嘘偽りない本当のことでした。心からそう思えたのです。